法人破産

(1)法人破産は時期を誤ると取り返しがつかない

破産は、会社の財産を原則として全て換価して債権者に平等に配当することによって全て借金を免除することを認める国が用意した法的制度です。経営努力を尽くしても事業の継続が困難となった場合に、経営者が借金から解放されて新たな人生を踏み出すための最後の手段ということもできます。

ただ、破産はその時期を誤るとその恩恵を十分に受けることはできません。

まず、破産には費用がかかります(詳しい金額については「費用」のページをご覧ください。)。通常、経営状況の苦しい会社であっても、売掛金の回収した段階ではキャッシュがありますので、そのキャッシュを債権者への弁済に回すのではなく、それを破産の費用に充てることがほとんどです。また、保険の解約返戻金など換価して破産費用に充てられる場合には、必要最小限の範囲で換価を行って破産費用に充てます。

しかし、回収した売掛金を全て弁済に回した後に取引先から信用不安等を理由に取引を拒絶されたり、換価可能な財産を全て換価して債務の弁済に回してしまった後(若しくは、強制執行等により換価可能な財産を失った後)では、破産費用に必要なキャッシュすら用意することができず、破産できなくなってしまいます。そうしますと、いつまでも債権者からの督促(場合によって強制執行)を受け続けることになり、安心して新たな生活に踏み出すことはできません。

また、仮に破産費用を用意できたとしても、親族などの「身内」から借金してそれが返済できなくなると、破産後に彼らからの援助を受けられなくなり、この場合、新たな生活の再建が難しくなることがあります。

たしかに、破産によって財産と経営者として信用は失います。しかし、経営を通じて得た知識・技術・人としての信用が失われるわけではありません。当法人のお客様でも、破産後も従前の取引先から仕事をもらい、見事に生活再建を成し遂げた方もいらっしゃいます。

破産は、親族・取引先などの関係者に多大な迷惑をかけることとなる前に、決断することが重要です。
当法人には企業の仕事を集中的に取り扱っている弁護士が在籍しており、会社の実情を踏まえて破産・生活再建へのプランニングを行います。

(2) 法人破産のメリット・デメリット

ア メリット

税金など一部の例外を除き、全て債務が免除されます。
個人の場合、生活必需品等と現金99万円までは持ってよい(換価しなくてよい)こととされていますので、これらを元手に生活再建を図ることができます。

イ デメリット

①原則として全て財産が換価されます。特に、自宅不動産や自動車を失うことのデメリットが大きいといえます。

また、②信用情報登録されることになりますので、5年から7年程度は信用取引が困難になります。
その他、③警備員などの一定の職種について制限がかかること、④保証人がいる場合に保証人に対して請求がなされることなどが挙げられます。

これらのデメリットは破産を先延ばしにしたところで避けられるものではなく、債務の弁済ができなくなれば訴訟・強制執行により財産は換価されることになりますし(①)、経営者個人で借入を行い会社に貸し付けを行うようになり、個人の借入も弁済できなくなれば、結局、信用情報登録されることになります(②)。約定どおりの弁済ができない状態が続けば、保証人に対する請求も避けられません(④)。

(3) 法人破産の流れと解説

破産の手続は概ね以下の流れで進みます。

①弁護士に相談・委任契約の締結 → ②弁護士が債権者らに対して受任通知を発送 → ③破産申立準備 → ④裁判所に破産申立 → ⑤破産手続開始決定 → ⑥財産の換価・配当 → ⑦破産手続終結決定 → ⑧免責決定

各手続についての概略は以下のとおりです。

ア 弁護士に相談・委任契約の締結

弁護士が会社・相談者様の具体的状況をヒアリングし、破産すべきか、破産するとしてどのような業務・資料が必要となるのかを判断し、注意すべき事項(詐害行為・偏波弁済を行わないことなど)と併せて説明を行います。

その結果、「破産する。」との結論に至った場合には、当法人との間で破産申立手続を委任する旨の委任契約を締結していただきます。

イ 弁護士が債権者らに対して受任通知を発送

上記アの委任契約締結後、当法人から原則として速やかに債権者らに対して受任通知を送付します。
これにより、債権者らからの督促は基本的に止まります。

なお、債権者が金融機関で当該金融機関に預金がある場合には、受任通知の発送により当該預金が相殺されてしまうので、受任通知発送前に預金の払い戻しを行っておく必要があります。

ウ 破産申立準備

当法人と打ち合わせを行いながら、破産申立に必要な書類を準備していきます。この段階が相談者様に最も動いていただく段階で、速やかに書類を揃えていただけると後の手続がスムーズになります。

必要な資料は、会社の決算書・商業登記簿謄本、不動産の登記簿謄本、保険証券の写しなどになり、詳しくはご来所いただいた際にご説明します。

エ 裁判所に破産申立

準備した書類を添付して裁判所に破産の申立てを行います。裁判所が申立書類を確認して補充を求めてくることもありますので、その場合、補充された事項について説明を補充し、又は、書類を追加して提出します。

なお、医療保険など解約(換価)されると困る財産がある場合、法律の許す範囲内において換価対象から外すよう求める申立て(自由財産拡張の申立)も併せて行うことがあります。

オ 破産手続開始決定

裁判所が会社・個人のそれぞれについて破産手続開始決定を行います。

破産手続開始決定後に生じた事由により取得した財産は換価対象外となり、原則として自由に処分することができますので、なるべく早くこの破産手続開始決定を得ることができるように活動していくことになります。

カ 財産の換価・配当

裁判所から選任された破産管財人が会社・個人の財産の換価・配当を行います。換価価値に乏しい不動産がある場合などはこの手続に長時間を要することもあります。

キ 破産手続終結決定

財産の換価・配当が終了すると、裁判所が破産手続終結決定を行います。これにより破産手続は終了し、個人についての免責決定を待つ状態となります。

ク 免責決定

個人について免責不許可事由がない場合、又は、免責不許可事由があっても免責するのが相当と認められる場合には、裁判所が免責決定を行います。これにより、公租公課など一部を除き、原則として個人の債務全てについて支払義務が免除されます。

免責不許可事由とは、この事由がある場合には原則として免責してはならないと定められている事由で、詐害行為(財産を無償又は廉価で他者に処分する行為)、偏波弁済(一部の債権者にのみ弁済を行う行為)、詐術を用いた借入(破産申立予定であることを秘して借入を行うなど)、ギャンブル・浪費により借入などがこれに当たりえます。

破産を選択される方は、くれぐれもこれらの行為は慎まなければなりません。

なお、これらの事由がある場合にも、なお免責を認めるが相当と認められれば、免責されますので(「裁量免責」と言います。)、これらの事由がある場合でもそれだけであきらめる必要はありません。

(4)解決事例

当事務所では法人破産について多数の解決実績がございます。

法人破産の解決事例については「こちら」をご覧ください。

(5) 費用

破産に関する費用については、「こちら」をご覧ください。

(6) 従業員・代表者の生活

会社を倒産させることにより従業員が路頭に迷ってしまうと考えて、法人破産を躊躇される方もいらっしゃいます。しかし、結論として、差押え等により会社財産のコントロールが効かなくなる前の段階で破産手続を採った方が従業員にとっては良いことの方が多いです。

労使関係が健全な状態であれば代表者が取引先に頼んで従業員の再就職先を確保してあげることなどもできますし(実際、このようなケースは多いです。)、従業員には失業保険・未払賃金立替払制度などの公的給付もあります。

むしろ、問題として切迫するのは、法人代表者の生活です。

法人代表者には失業保険などの公的給付制度はありませんので、破産手続の準備開始後、直ちに自ら働いて生活費を稼がなければなりません。ここが従業員との大きな違いです。

明らかに支払不能の状態で回復の可能性がないにもかかわらず事業を継続し、未払買掛金を増大させるなど取引先に多大な迷惑をかけてしまうと、代表者の再就職も困難になることがあります。

当法人において破産された法人代表者の方で取引先に雇ってもらい、子供を育てつつ問題なく生活されている方は少なくありません。無理な法人の延命はこのような再出発を阻害するのです。

代表者、従業員、さらに取引先の将来のため、勇気ある判断が求められます。

(7) よくある質問

Q 会社破産をしても、社長(名義)の自宅は残せますか?

A 残せる場合と残せない場合があります。

 

〈社長が会社の債務の連帯保証人や物上保証人になっていない場合〉

→会社の破産とは無関係であるため残すことができます。

※ただし、社長が会社の債務を保証していることがほとんどです

 

〈社長が会社の債務の連帯保証人になっている場合〉

→社長も破産せざるを得ない状況であれば、自宅は破産管財人により金銭換価されるため、原則として残すことはできません。ただし、社長の親族などが相当価格で買い取ることは可能です。

→破産ではなく個人再生の可能性がある場合は、残すことができます。

 

〈社長が会社の債務の物上保証人になっている場合〉

→原則として残すことはできません。ただし、社長の親族などが相当価格で買い取ることは可能です。

 

Q 会社破産をしても、車を残せますか?

A 残せない場合と残せる場合があります。

〈残せない場合の例〉

→車に所有権留保が付いている場合で、かつ、留保権者が引き上げを望む場合

→財産的価値があり、売却可能な場合 など

※所有権留保が付いているかどうかは、車検証の所有者欄や自動車ローン契約書の記載で確認することができます。車検証の所有者欄が会社名義になっていない場合は、所有権留保が付いていると考えてください。

※なお、山口地方裁判所では、初年度登録から6年以上を経過しているかどうか(ただし、国産車に限る。)が財産的価値の有無の判断基準となっています。初年度登録から6年以上を経過していれば基本的には財産的価値はないと判断されます。

 

〈残せる場合の例〉

→車に所有権留保が付いているが、留保権者が引き上げを望まない場合

※ほとんどの場合は引き揚げられます。

→車に所有権留保が付いておらず、かつ、財産的な価値がない場合で管財人が財団放棄した場合

→車に所有権留保は付いていない場合で、かつ、財産的価値がある場合であっても、社長が買取可能な金額(自由財産の99万円の枠に収まっている)である場合

 

Q 会社破産を弁護士に依頼したら取り立ては止まりますか?

A 取立てが止まらない場合と止まる場合があります。

債権者が貸金業者である場合は、弁護士からの「受任通知」が届いた後は、債務の弁済を要求することができなくなりますので(貸金業法第21条第1項9号)取り立ては止まります。

しかし、中には貸金業法の適用を受けない債権者もいます。ほとんどの場合は弁護士介入の通知により取り立ては止まりますが、場合によっては弁護士の注意を無視して止まらないこともあります。

なお、裁判や強制執行といった法的な手続については、弁護士に依頼しても破産手続開始決定が出るまでは原則止まりません。

 

Q 会社破産をした後は仕事をしてもいいのですか?

A 仕事をしても問題ありません。

むしろ、会社の破産により収入がなくなりますから、積極的に仕事をすることをお勧めします。

Q 会社破産をしても年金はもらえますか?

A もらえます。

会社が社会保険料を滞納したまま破産するということもありますが、その場合に従業員がもらう厚生年金の受給額が減らされるということはありません。

ただし、もとの会社の厚生年金を国民年金や、新たに就職した会社の厚生年金に切り替える手続をする必要があります。

 

Q 会社破産をしても生活保護はもらえますか?

A もらえます。

生活保護を受給する要件に自己破産をしたかどうかは関係がありませんので、生活保護の要件を満たしている限りは受給することが可能です。

Q 会社破産をした場合、家族はどうなりますか?

A 家族が会社の役員や従業員であった場合はその地位を失います。また、会社所有のものを利用していた場合(建物、車など)、それらは利用できなくなります。

会社の債務に関していえば、保証人などになっているという事情がなければ、特に問題はありません。
会社の破産と同時に代表者も破産する場合も同様のことが当てはまります。詳しくは「Q 会社破産しても、社長(名義)の自宅は残せますか?」、「Q 会社破産をしても、車を残せますか?」を参照ください。

Q 会社破産をした場合、従業員にはどのような手続が必要ですか?

A 自主退職を促す必要があります。

従業員を雇い続けることはできないため、従業員には、失業保険の受給方法、健康保険の切り替えの方法、未払賃金立替制度などの適切な情報提供をしたうえで、自主退職を促す必要があります。自主退職に応じない場合は解雇せざるを得ませんが、いずれの場合も、未払給料は可能な限り支払っておくのがベターです。

Q 会社破産をすると誰かにわかりますか?

A わかります。

会社の債権者に対しては、弁護士や裁判所から書面が届くため、会社破産の事実が分かります。それ以外の者については、裁判所が破産手続開始の決定をした場合は、その事実が「官報」に掲載されるため(破産法第32条第1項)、官報を見た人にはわかってしまいます。

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